第14章 【月島蛍】雨はいつかあがるという事[R18]★
例えば。
突然の雨に備えて常に折り畳み傘を常備している人と、天気予報もろくに見ず傘なんてもちろん持ち合わせていない人だったら、僕は断然、前者を支持する。
備えあれば憂いなし。
それが真夏の夕立であろうとも、天気予報を見ればある程度予想はつくし、折り畳み傘さえ携帯していればそんな心配もいらないのだから。
行き当たりばったり。
気合いでどうにかなる。
そんな言葉の類はどうしても好きになれない。
なのに、
どうしてだろうか。
僕が好きなその人は、よく雨に濡れてやってくるんだ。
「何で折り畳み傘を持たないの?」
「蛍がタオルを貸してくれるって分かってるから、かな?」
「、、、バカじゃないの。」
僕が眉間に皺を寄せて罵ったところで、この人は何も揺らぎやしない。
濡れた服のまま平気で我が家に上がり込み、僕に抱きついてくるその身体を押しのける事も出来ず、持っていたタオルで濡れた髪を拭いてやる。
「兄ちゃん、今いないよ。」
「ん、知ってる。」
僕を見上げるその顔は、兄への罪悪感なんて微塵も感じていないような、そんな笑顔だった。
「本当、サイテー。」
彼女に投げかける辛辣な台詞は、
自分自身に向けるものでもある。
だけど、言葉はあまりに無意味だ。
そんな言葉を吐き捨てながらも、僕はさんを抱き寄せ、甘えるようなキスをする。
「、、、、、雨の匂い」
「蛍、シよ、、、」
兄の彼女、さんと僕には、二人だけの秘密がある。