第11章 【赤葦】溺れる街★
突然降り出した豪雨に
東京の街は溺れた。
軟弱な交通網は完全に麻痺。
降りしきる雨は街を白く染め、雷はけたたましい音を立てながら、そこかしこで空を破るように光っていた。
「赤葦ぃー、山盛りポテト追加しようよー。」
「それは名案っすね。」
「よしっ!」
呼び出しのチャイムに手を伸ばし、駆けつけてきた店員に注文を済ませると、さんは頰杖をついて外の景色をぼんやり眺めた。
彼女、さんは同じ梟谷バレー部のマネージャーだ。
16時頃から突如降り出したゲリラ豪雨は、もはや関東地方では夏の風物詩となりつつある。雨なんて降りそうもない晴天から突然雨雲が立ち込め降りだすもんだから、傘を持って備える人も少ない。
と言うか、こんな雨じゃ傘なんて意味をなさないレベル。
帰り道が途中まで一緒な俺とさんは、
部活帰りに成り行きで一緒に帰ったり、途中でファミレスに寄ったりする間柄だ。
恋人だったらいいけど。
今のところその予定はない。
さんは俺を食の感覚が似ている同じバレー部の後輩程度にしかたぶん思っていない。だから、男の俺でもなんの躊躇もなく誘うんだろ。
俺はそんな関係になんとなく落ち着いてしまっている反面、たまにどうしようもなくぶち壊したくなる衝動に駆られることがあった。
「お待たせしました、山盛りポテトです。」
「わーい、どうもー!」
揚げたてのフライドポテトを早速つまみ上げ、小皿に入ったケチャップをつけて口に放り込む。
満足気な笑顔は、単純に可愛い。
そんな彼女の姿を見る度に、俺はぶち壊したい気持ちをギュッと押し込め、可愛い後輩に徹する。
(もう少し、このままでいいか、、、。)
それの繰り返しだ。