第7章 【月島明光】眼鏡の向こう側
幻聴が聞こえた気がした。
唇に触れる前に明光さんの声がした気がしたんだ。
いただきますって
さっき信号待ちでしたキスみたいに、明光さんの唇が触れる。
最初は唇の感触を楽しむように優しく唇を合わせる。
見た目は薄そうな唇なのに弾力があって気持ち良い。
夢中で唇を合わせると不意に触れるねろりとした生暖かい感触。
口を開けば唇を這うように舌が入ってくる。
最近の猛暑に負けないくらい熱い舌。
口の中を貪るように縦横無尽に舌が這い、やっとで息継ぎをする。
苦しくて、恥ずかしくて
いつのまにか頬を伝った涙。
それが、私の頬に添えていた明光さんの手に触れ、ふ、と手が離れた。
それと同時に唇も離れていく。
「いや、だった?」
少し困ったような声。
それに首を振るけれどおねだりの方法が分からず、下を向く目線。
それを否定と捉えた明光さんの身体が離れてしまい、とっさに腕を引いた。
「…?どうしたの?」
「あの…えっと…」
きょろり、きょろりと彷徨う目線。
それを見た明光さんは困ったように笑う。
「無理しないで?そろそろおばさん心配するし帰ろうか。」
違うの。
エンジンをかけようと正面を向いた明光さんの腕を強く引くと、ふ、と思いついた言葉をつぶやく。
「あ…えっと……明光さんの…それ……飲みたい、です…」
それとは先程味見させてもらったチョコ味のフラッペ。
ああ、と明光さんはフラッペをドリンクボトルから抜き私の方に差し出そうとして、止まる。
先程の明光さんと同じ意図だと気づいたらしい。
私に向けていたストローを自らに向けなおし、口に含む。
こくん
嚥下で動く喉仏。
ストローを外した唇。
そして、私をみる、瞳。
「口、開いて。」
そう言われ開いた唇に冷たい舌が入り込んだ。
一気に広がるカカオをもっと堪能したくて、私はそっと瞳を閉じた。
瞑ったまぶたの裏に輝く
きらりきらりと光る星
織姫と彦星みたいに離れ離れにならないように
ちゃんとココロを繋いでいてね?
end