第7章 【月島明光】眼鏡の向こう側
雨も上がったしそろそろ帰らなきゃね
そう言われ、玄関に移動して数分が経った。
月島家のお母さんからいただいたお土産のデザートが美味しそうでついつい箱の隙間から中身を覗いていると、後ろから声がかかった。
「おまたせ。じゃあ行こうか。」
「っ!はいっ!お邪魔しました!」
私が玄関先から挨拶をすると、リビングから気をつけてねー!とお母さんの声。
がらがら、と明光さんが開けた玄関の戸をくぐり外へ出れば、むわりと生暖かい空気が体にまとわりついた。
外はすっかり闇。
ぴぴっと電子音が鳴り、車のドアが開く。
「ちゃん、どうぞ?」
「ありがとうございます。」
開けてもらったドアから助手席に乗り込むと、私の腕に抱えられていた荷物がするりとなくなった。
「これ、後ろにおいてもいい?」
「大丈夫です。」
閉めるよ?
明光さんは私にそう伝えると、ばんとドアが閉まる。
後ろに私の荷物を置いた明光さんは、運転席の扉を開け私の隣に乗り込んできた。
エンジンがかかり、出発しようとした車。
「あ、ちょっと待ってね?」
それは、明光さんの制止の声で一時停止。
明光さんは運転席と助手席の間にある小物入れから黒の細長いケースを取り出すと、その中から何かを取り出した。
「あれ?明光さん、メガネなんてかけてたんですか?」
そう問えば、明光さんは困ったように笑いながらぽつり、と話し始める。
「最近視力が下がって…運転するときだけね?」
黒縁のスクエア型。
明光さんの柔和な顔が引き締まって格好良い。
ちらりと横を見ると、眼鏡越しの瞳と目が合い、恥ずかしくて目をそらすと、私たちを乗せた車がゆっくりと動き出した。