第6章 【及川】煌めく星、ひとつ
返事の代わりにブイサインを突き出し、岩ちゃんの眉間にシワが刻まれるよりも先に走り出す。
岩「おい!濡れんだろうが!!」
傘を放り出して走り出すオレに、岩ちゃんが叫ぶけど。
そんなの構っていられない!
容赦なく向かってくる雨粒を受けながら、まだ教室に残ってくれている事だけを祈って走り続けた。
びしょ濡れのままで靴さえも下駄箱に脱ぎ散らかして階段を駆け上がる。
すれ違う生徒達はそんなオレを見て顔を顰めたり、笑ったりしてるけど。
今だけは、カッコ悪い必死過ぎる及川徹でも構わない。
だって、もうすぐ···
会えるんだからさ!
濡れた靴下で廊下に急ブレーキを駆けて、教室のドアを勢いよく開ける。
中には···いた!!
『及川、くん?!···びっくりしたぁ。それよりびしょ濡れじゃない!』
ここに、こんなに近くに···いた!!
「ずっと待たせて···ゴメン」
上がる息を飲み込み、1歩ずつ歩み寄る。
『このタオルで良かったら使って?バレー部のスーパーエースが風邪でもひいたら大変!』
差し出されるタオルを腕ごと掴みいっきに引き寄せ抱き締める。
『あ、ちょっと及川くん?!』
「ずっと近くにいたのに、気付かなくて···ゴメン」
『···気付いて、くれたんだ?』
「これのおかげで、だけどね。でも、そのおかげで···やっと会えた」
体を離して手の中のキーホルダーを見せると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
『おまじない掛けて、良かった···これでも気付いてくれなかったら、とか思ってて。約束は、覚えてる?』
「もちろん!大きくなったら、オレのお嫁さんに···でしょ?」
潤んでいく瞳にオレが映る。
「もっとよく、見せて?」
小さな泣きぼくろに、唇の中にある小さなほくろ。
それをゆっくりと指でなぞって、誰もいない教室で···幼稚園以来のキスをした。
もう、離さないから。
やっと見つけた···オレの煌めく星、ひとつ。
~ END ~