第38章 【花巻】夏の憂鬱は夜空に託して
八月ももう終わるというのに蝉の鳴き声は相変わらずうるさくて、もわっとした風が鳴らす風鈴の音もちっとも涼しげに聞こえない。
振り返れば部活を引退してからは受験生カラー一色で、夏期講習や予備校と毎日を忙しく潰されている。友達とも夏らしい事もできず密かに想いを寄せる彼にも会えないままで、今年の夏は何一つ思い出を作れないままだった。
「このまま18歳の夏休みが終わっちゃうのか…」
ベッドの上で寝ころびながらついボヤいてしまう。机の上の参考書さえ憎らしく思えてくるからもはや重症だ…。
そんな風に憂鬱に過ごす午後。着信音とともにメッセージがスマホに届けられる。“夜の打ち上げ”とつけられたグループに参加すると、男バレの合宿を無事に終えた打ち上げに夜みんなで集まろう!とそんな話になっていた。といってもコンビニで適当におつまみや花火なんかを買って河川敷に集まるだけ。もちろんメッセージの中で盛り上がるメンバーには想いを寄せる花巻もいる。
これは夏の思い出を作るチャンスかもしれない。そう思うと居ても立っても居られなくて二つ返事で返信をする。やり取りの中で花巻が迎えに来てくれることも決まり、思わぬ展開に心は弾んでいた。
だけど胸を過るは嬉しい気持ちと反するような複雑な感情。
花巻に会えることも気にかけてくれていることも嬉しくて一瞬有頂天になったけど、いざ冷静になってみると花巻に似合う女の子はきっと自分じゃない。友達としてはみてくれてるだろうけど、“女の子”として意識してもらえてないのは分かってる…。
告白する予定もないけど、束の間の二人の時間を考えると少し複雑で内心落ち着かなかった。