第36章 【宮治】ナイショ。 ★
「なぁ、治くん。私、かき氷がいい!」
浴衣の裾を引っ張られ、
俺は足を止める。
出店が立ち並ぶ大通りは、普段の激しく行き交う車の代わりに、のんびりと歩く浴衣姿の人達で溢れ賑わいを見せていた。
頭上に連なって光る赤い雪洞に、お囃子の音。馬鹿騒ぎしてる若者の声に、下駄のカランコロンという音があちこちから聞こえてくる。
「氷なんて腹にたまらへんやん。」
「あんなぁ。私、お腹いっぱいにしたくてお祭り来てるんとちゃうんやけど!」
「じゃあ何?」
「雰囲気!!!!」
女子って本当わからん。
頭ん中でそんな事をボヤきつつ、かき氷の出店の方に駆けていくの後を渋々追いかける。
そもそも、なんで俺がツムの彼女であると祭りに来てるんかと言えば、あのアホがユースの合宿あるのを忘れてたんが原因で、、、
「代打、治くん!まじ頼む!!!」
「はぁ?そんなもんパスすりゃええやん。」
「祭りパスとか、完全シバかれ案件やから!!なぁー、兄弟のよしみやろ!な!?」
「代打言うても、は俺でえぇんか。」
「パスよかマシやろ!顔大して変わらんし!うんうん!イケる!」
(何がイケんねん、アホが。)
俺の前髪の分け目を逆にして満足げに頷くツム。俺はそんな能天気な片割れを見て、デカイため息を漏らす。
(俺なんかに任せてどうなっても知らんからな。)
俺だったら、他の奴にデートの代わりなんか絶対させへん。その代打が何考えるかわからへんやん。もしかしたら彼女の事好きかもしれへんやんか。
俺みたいにーーー。