第34章 【岩泉】夏の熱を奪うほどに_ss★
8月も終わりに差し掛かる頃。
今まで張り付くような湿気をまとっていた外の空気も、いつしかサラリとした秋を感じさせるものへと変わっていた。
久々に開け放った窓からは夜風がフワリと吹き抜けカーテンを揺らす。エアコンをつけない夜なんていつぶりだろうか。
俺はふとそんな事を思いながら、網戸の向こうのベランダに佇む今ではだいぶ見慣れた後ろ姿に声を掛けた。
「。この前買ったチューハイ飲むか?」
「うん。ありがと。」
網戸を開け、少し色褪せたビーサンをつっかけて、ベランダの手すりにもたれる彼女に、よく冷えた缶を手渡す。
「ホント花火好きな。」
「はじめと見るのが好きなの。」
だいぶ向こうの方の暗闇で小さな花が咲いては消え、咲いては消えてゆくの2人で見つめる。
幼い頃から何度も一緒に見てきた景色。
花火大会は久しく行かなくなったが、俺たちはこうして、遠くの打ち上げ花火を2人で眺めたり、またある時は庭で手持ち花火をしたりして、夏の思い出を刻んできた。
そして今年は、2人で暮らし始めたアパートのベランダから、遠くの打ち上げ花火を並んで見ている。
は出かけるわけでもないのにわざわざ浴衣を着て、なんなら髪までしっかりアップにして、俺が手渡した缶チューハイのプルタブを開け口をつけた。
部屋から漏れる明かりに照らされるその横顔に、俺は今でも恋している。