第28章 【月島 蛍】夏の音色、風に乗って
夏休みに入り、部活も朝から1日練習の日が増えた。
今日も隣でひたすらしゃべり続ける山口と歩きながら学校の門を通過する。
だいたい、何が楽しくてあんな暑苦しい連中と過ごさなきゃならないんだよ。
特に···
西「おぅ!月島!朝から元気ねぇな!!」
この人とか。
田「月島てめぇ!ノヤっさんが話しかけてんのにガン無視かよ!」
この人。
「はぁ···面倒」
山「ツッキー?!」
「山口、うるさい」
山「ごめんツッキー···」
はぁ···なんなの?
朝からこんな騒がしくてむさくるしい、元気だけは1000%以上ありそうな人に左右を固められるとか。
ありえないデショ。
ギャーギャーと喚く集団に囲まれながらも体育館へと向かえば、どこからともなく···チリーンと風鈴の音が聞こえて来た。
この騒がしくて暑苦しい時に、なんなのこのミスマッチなイライラさせる音は。
西「潔子さんっ!!···あぁ、まるで潔子さんを表しているかのように美しい音色···」
「は?···バカなの?」
田「月島テメェ!それは潔子さんのことか?!」
「ホント、面倒···はぁ···」
旭「いい音だよなぁ。なんかこう、聞いてるだけで涼しくなるっていうかさ」
「なら、東峰さんは涼を取るのは楽でいいデスネ」
旭「えっ?!」
「···別に何も」
通りすがりながら毒を吐いて、風に吹かれてチリーンと音を鳴らす下をくぐり抜ける。
この音···イライラする。
そんな苛立ちを抱えながら、少し前の···夏の出来事を思い出していた。
「家庭教師?···別にそんなのいらないけど」
去年の春先に、中学3年で受験生だからと言う兄ちゃんの単純な考えで僕に半ば無理やり家庭教師がついた。
兄ちゃんの知り合いだからって事で格安だしって事で親も喜んでたみたいだけど。
志望校は烏野で。
今の自分の成績なら余裕で合格するって太鼓判押されてるのに、家庭教師なんて···必要?
そんな事を考えていても初めての家庭教師が来る日がやって来て。
その日はなんだか兄ちゃんもソワソワして落ち着きがなくて。
「勉強教わらなきゃいけないのは僕なのに、なんで兄ちゃんがそんなにソワソワしてるんだよ」
明「え、あぁ~まぁ、アハハ···」
兄ちゃんの挙動が理解不能。
けど、その理由もすぐにわかった。