第26章 【黒尾】君のいない夏★
本日の最高気温37度。
朝のニュースでお天気お姉さんがそう言っていたのを俺はふと思い出す。
耳に張り付く蝉の声。
踏切の向こうの揺らめく陽炎。
あの日笑っていたアイツの残像が
ぼやけた景色の中に見える。
首を伝う汗を腕で拭い、空に手を翳せば強い日差しが指と指の間から俺をさす。
カンカンカンカンカン
鳴り響く警告音。
直後。一瞬にして通り過ぎていく列車に陽炎はかき消され、ゆっくりと遮断機が上がった向こう側には、もう彼女の残像はない。
アイツがいない夏が、やってきた。