第23章 明燐【黒尾】そして陽炎は夢から覚める。[R18]
それは、私と彼だけが知ってしまった特別な香り。
どうしようもなく甘くて、目眩が起きそうな。
癖になってしまったこの香りを求めて私達はまた、こうして互いを求め合ってしまうだろうか。
真夏の陽炎のようにユラユラと。
夢と現実との境もわからなくなる感覚。
「んっ……だめ…はぁ…ん……」
わたしの額に張り付いた前髪を、彼の指先がそっと払う。
「だめ、じゃねーよな…?」
「ひゃあぁん…っ!!」
オシオキ、と言わんばかりに既に深くまで沈んでいる腰を更に沈められる。
腰骨を掴まれ、激しく揺さぶられる。
途端にまたあの香りが鼻腔を擽る。
「甘いな………」
耳元で響く少し掠れたテノール。
それがまた私の感度を上げていく。
「はは、……すげぇ、締まる」
「や…ぁ、黒尾く………」
男子バレー部の黒尾くんと、女子バスケ部の私。
接点なんか、ほとんどなかった筈なのに。
「あぁ…っん……!」
「もっと、こっち……そう、腕回して」
優しく腕を引かれ、彼の首へと誘導される。
更に近付く距離があの香りを強く感じさせた。
(なんで……気付いちゃったんだろう…?)
彼の癖のある黒髪が私の頬を優しく掠めていく。
ダメ。
心臓が壊れてしまいそうなほど音を立てている。