第5章 風邪
「…ん…っ…。」
目が覚めると、自分の部屋にいた。窓が開いていて、カーテンがなびいている。私は起き上がった。
「…あ…れ…。」
「目が覚めたか?」
「!…坊ちゃん…。」
ドアを開けて入ってきたのはシエルだった。
「覚えているか?お前、倒れたんだぞ?」
「…ぁ…。」(そうだ…確か…歩いてて…よくわからないこと言ってて…それで……。)
少しずつ思い出してきた。
「どうやらお前は、熱があるらしい。今日は1日寝ていろ。」
「!…で、ですが…。」
「命令だ。」
「っ…わ、わかりました…。」
そう言われてしまえば、従うしかない。
「何か欲しいものはあるか?」
「いえ…あれば自分で取りに行くので…。坊ちゃんは…私のことなど気にせず、お仕事を」
「質問に答えろ。お前は病人なんだ。」
「…ですが…。」
「…はぁ…。」
ため息をつくと、ベッドに座り、私の頬に触れた。
「少しは甘えるということをしろ。お前は無理をしすぎだ。」
「!…」
「だから…。…!?」
頬が冷たい。水が垂れている。
「っ…ぁ…。」
涙を流していた。
「…」
「!…す、すみませ…っ…。」
涙を手の甲で拭いているのに止まらない。
「ごめ…なさ…っ…!」
こんなに優しくされたことはなかった。風邪をひいても、ひいた自分が悪い。誰も何もしてくれなかった。そばにすらいてくれなかった。
それなのに……シエルはこんなにも優しい。