第2章 来栖 龍之介・壱
「待ってたわ、百合香ちゃん」
「お待たせして申し訳ありません」
「……、」
泉に連れて来られた高級ホテルのスイートルーム。
今夜はここで共に過ごすつもりなのか…そう思っていたが、そこにはすでに先客がいた。
バスローブを身に纏っている女。
俺より少し年上だろうか…"美人"と言って差し支えない容姿だ。
「社長、紹介しますね。こちら"瞳さん"と仰って、昔私がお世話になった方なんです」
「………」
そう淡々と説明されるも、どう返せば良いか分からない。
自然と女の方へ視線を向ければバッチリ目が合い、にこりと微笑まれた。
「あなたが来栖くんね…話は百合香ちゃんから聞いてるわ」
「……、」
聞いてるって一体何を…
そう問おうとするより早く、泉が信じられない事を言ってくる。
「社長…今夜は瞳さんのお相手をしてあげて下さい」
「……、は…?」
一瞬その言葉の意味が解らなかった。
"相手をする"ってどういう事だ……まさか夜の相手じゃねぇよな…?
「何呆けてるんです?返事は"はい"でしょう?」
「ちょ、ちょっと待て…相手をするって……」
「勿論ベッドを共にするという意味です。瞳さん、旦那様とはご無沙汰で淋しいんですって…。だから…ね?」
「なっ…」
(旦那って…)
この女は既婚者という事になる。
そんな女を俺に抱かせるというのか…?
「………」
これはまた泉の新しい"遊び"なのだろうか?
それとも…
「お前は…平気なのかよ」
「…何がです?」
「っ…」
──俺が他の女を抱いてもお前は平気なのか?
そう問い質したかったが、俺の中のちっぽけなプライドが邪魔をし聞く事は出来なかった。
俺と泉は別に恋人同士な訳じゃない。
会社では社長と秘書という関係だが、プライベードでは"奴隷"と"御主人様"…俺に拒否権は無いのだ。
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