ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第1章 彼が消えた日
"全く世話が焼けるね"なんて、いつかの台詞がぴったりな表情を浮かべた彼は溜息を付いた
届かなくても良い、只彼に知っておいて欲しかった
私がどれだけ彼を想い彼を愛しいと感じているのか
『………あーあ。言っちゃったね。』
彼は只そう呟いた
彼は私の心を知っていたのだ
ならば………どうして………受け入れようとも拒否しようともしなかったのか
今更考えて見たって解らなくて結局彼の考えていた事は私には何ひとつ解らないのだと思うと涙はまた頬を伝う
困った様な顔をした彼が至近距離に見えた瞬間に彼は私に優しいキスをした
彼からの返事は言葉の代わりのキスだった
柔らかな感覚は全身を包み
悪戯な笑みを浮かべた彼はもう一度唇を重ねた
私に今の出来事は夢なんかじゃないんだと教えてくれている様だった
唇を通して私が感じた彼からの答えは彼も私と同じ気持ちだったという事で
すっかりカサカサの唇を指でなぞればあの日の感覚が甦る
今となっては最初で最後の悲しいキス
名残惜しそうに離れた唇
最後に見上げた彼の瞳は何処か寂しそうに揺れていた
しかしその表情を私が確認したのはほんの一瞬の出来事で
彼は直ぐに背中を向けて光の中を歩き出してしまった
伸ばした手はもう届かない
やっと想いが通じた
彼の気持ちがわかった
なのにどうして………
行かないで
『さようなら』
最後に彼が残した優しい声は
彼から聞いた初めての別れの言葉だった