ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第57章 温かい時間
テレビからは長男の独り立ちに両親が背中を押して、弟達は惜しむ様に涙したり抱き着いたりしているシーンが流れている
家族の為、家の為と働く彼を独り立ちさせる事等彼の家庭にありはしないのだろうか……
家族経営なのだから当たり前だと言われてしまえばそうなのだが
彼がもし独り立ちしたいと言い出して彼の両親は背中を押してくれるのだろうか
そして、別れを惜しんで涙を流す弟が何人いるだろうか
「………ねぇ沙夜子」
ずっと無言だった彼がゆっくりと口を開いた
「あの親はどうして喜んでるの?」
単調に言葉を紡ぎ、真っ直ぐ画面を見詰めたままの彼は心底不思議そうな声を私に向けた
普通に、平凡に育ったならば説明等皆無な場面
そんな些細な場面が彼の心には引っ掛かったらしい
「……………それは、息子が両親の元を離れても大丈夫なくらい立派に成長したから………とかじゃないですかね………」
「……………ふーん。」
納得した様なしない様な間延びした声に只彼を見詰める
「………イルミさんはどうしてやと思ったんですか?」
「…………本当に解らなかった。長男は家にとって最も迅速に有益な働きが出来る駒なのに手離すなんて理解出来ない。」
彼は大家族の長男と自分を重ねたのだろうか
"長男"という立ち位置を役割として捉えた上、更には駒だと言った
彼の中での彼自身の立ち位置が家の為の駒だなんて酷く悲しい言葉だ