ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第1章 彼が消えた日
脳裏に繰り返し繰り返し浮かぶのはあの日の事ばかり
私はあの日からアルバイトの全てを休んで部屋に引き込もっている
道に置き去りにした大量の買い物袋がどうなってしまったのかなんて事が今更浮かび
そのどうでも良さに抱き締めていたクッションを投げる
あの日彼からの着信に気が付いた時私は胸騒ぎを覚えた
何時もなら嬉しい筈の彼の名前を映す画面
しかしそれには違和感しか無かった
私からの電話は数え切れないが彼から電話がかかって来る事は数える程しか無かった
夕方のあの時間なんて私からの電話にも出ず彼は仕事に勤しんでいる時間帯で
その違和感は私を不安にさせた
不安を払拭する様に元気に弾ませた声に彼は普段と変わらず単調に言った
『自分の世界に帰るんだよ。今部屋に居るけど既にゲートが開いてる』
まさに私達の別れを示す言葉に私は今にも膝から崩れ落ちそうだった
彼が居なくなる恐怖は全身の力を奪い目の前を真っ暗にさせた
『………限界まで待ってるよ』
その彼の言葉だけを頼りに走った
一目で良いから彼に会いたい
そんな思いで開いた扉
出会った頃と同じ出で立ちで部屋に佇む彼を見て懐かしさが込み上げた
寒い寒い冬の日に扉を破壊して突然やって来た彼
最初は恐怖もあった、不安だらけで始まった生活
『おかえり』
彼は始まりと変わらない出で立ちなのに長く慣れ親しんだ優しい声で言った
終わってしまう、帰ってしまうと思うと不思議な気持ちになって
…………何故………?
貴方の姿は始まりと変わり無いのに何故終わろうとしているのかと
私の頭は目の前の現状を巧く理解出来ないでいた
『良かったよ、最後に会えて。それじゃあね』
あまりにも素っ気なく背中を向けた彼
最後に一目会いたいと願っていた筈がそんな事で足りる筈も無く
私は彼の背中にすがり付いた
彼が居なくなる事への拒否
今はまだ手が届く場所に要るのだから、だからまだ背中を向けないで欲しい
なのに彼は自ら光の中を歩み出そうとしたのだ
彼が消えてしまう、其れだけで私は身を裂かれてしまいそうなのに彼の行動は酷く私を突き放し心臓が切なさと悲しみで潰れてしまいそうだった
………………だけど本当は解っていた