ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第29章 ドレスとワイン
08月01日
スプリングの弾む気配に目覚めると彼がベッドを抜ける所だった
部屋を出て行こうとする彼の背中に仕事なのだと確信して慌てて後を追いかけた
濃い黒が空を染める深夜2時
「イルミさん!」
私は置いて行かれる寂しさに彼の背中にすがり付いた
「………沙夜子、まだ目覚めるには早いよ」
溜息を付いた後に振り向いた彼は大きな手のひらで私の頬を優しく包んだ
「…………お仕事行くんですか……」
見上げれば彼は少し困った様な表情を浮かべ私の身長に合わせて屈んだ
「………今日は贈り物を贈るから其れを着て待っていて」
跳ねている私の毛先を指に絡めた彼は私の背中をやんわり押してベッドルームへと連れて来た
タオルケットを捲り横に成る様に促す彼に渋々ベッドへ入る
「…………早く帰って来てくださいね。絶対怪我しないでくださいね。」
「うん。」
ベッドサイドに手を付くと屈み込んだ彼はその端正な顔を至近距離に迫らせて私に優しく口付けた
目を見開いていた私は薄く開いた大きな瞳に見詰められてぎゅっと瞼を閉じる
無機質な彼からは想像も出来ない柔らかく暖かい感覚に心音はドキドキと音を経てて私の身体中を心臓にした
ゆっくりと離れた唇に彼を見詰めるとクスリと笑われ瞬時に顔が熱く成る
「行ってくるよ」
言うなり立ち上がった彼を見上げて
「………い、行ってらっしゃい!」
声を裏返した私に彼は微笑みを残して夜の街に出て行った
ベッドで一人騒がしい胸を抱えて再び眠りに付いたのは外がうっすら明るくなってからの事だった