第4章 受けろ! 雄英
入試前夜______
「舞依、そろそろお風呂に入って寝た方が良いんじゃないかしら? 明日に備えて……」
19時と少し、庭で訓練をしていると、いつの間にか来た母が私に言った。この訓練だって、一応明日に備えているのだ。 動かないと落ち着かないというのもあるけれど。 母はウッドデッキに腰を掛ける。
「うん。 だけど、なんだか眠れなくて」
「そうね、雄英受けるんだものね」
「うん」
私は母の隣に腰掛け、夜空を見上げた。 星がいつもよりきらきらしていた。
「お父さんも、きっと喜んでくれてるわ」
「うん」
母は私の頭を撫でた。
「あと1ヶ月で帰ってくるからね、また3人で暮らせるのよ」
「……いや」
私の暮らす街______風来市から雄英に通うとなれば、何時間掛かるか分からない。 隣には保須市があり、交通の便こそ栄えているものの、毎日通うとなれば辛い。 その為、雄英から近い街にアパートを借りる予約をしてある。 尤も、雄英に受かるかどうかは分からないが。
母はそれを分かっているはずだけれど、無意識で言ったに違いない。 申し訳なさそうに「ごめんなさいね」と謝ってきた。
「私こそごめんね。 正直、お母さんを1人にしておくのは危ないと思うんだけど」
「たったの1ヶ月よ。 もし何かあっても、舞依から教わった護身術で何とかなるわ!」
「“何か”って、戦闘系であること前提なんだ……」
「うふふ。 だからね、心配しなくて良いのよ」
「うん」
また「うん」と言ってしまった。 何回目だろうか。
「貴女は夢を叶えるのよ……立派なヒーローになってね。 きっとよ」
母は私を抱きしめて言った。 温もりと優しい香りに包まれて、自然と涙が出そうになる。
「分かってる。 お母さんも心配しないで」
「ええ」
お父さんお母さん、待っていて下さい。
(私は必ず、立派なヒーローになってみせる)