第3章 初めての巡回-ジユウ-
「じゃあ俺は部屋に戻りますんで。お疲れー」
「お疲れ様です」
「では僕もこれで」
「私もこれで失礼します」
さらっと報告を済ませ、ツグミちゃん達は行ってしまう。私は肩の力が抜けたように、小さく息を吐いた。
「初日の感想は?」
「すごく歩き疲れました…。でも色々と勉強になります。皆さんの足を引っ張らないように頑張らないといけないなって」
「そうか」
朱鷺宮さんはどこかほっとしたような笑みを浮かべていた。
「覚えることはたくさんあって大変だろうが、まぁ、焦らず頑張れ」
「はい」
「それと、一つ伝えておこうと思ったことがあったんだ。個人的な部分で申し訳ないんだが…翡翠がハーフだってことは…気付いてるよな?」
「…はい」
「でな、本人はあの容姿のことを内心気にしてるから、触れないでやってくれるか」
「そうなんですね」
「もちろん、何か言って怒ったり泣いたりなんて真似はしないと思うが…ただまぁ、敢えて話題にしなくてもいいことだろ?」
「わかりました。そうですよね…誰にだって、触れられたくないことってありますよね」
空色の瞳が暗く陰り、壁を一点見つめる。
「こら」
「!」
「そんな顔をするとせっかくの美人が台無しだぞ。お嬢さんは笑った方が可愛いんだからいつでも笑顔でいないとな」
「ふふ、有難うございます」
「じゃあ戻っていいぞ」
「はい、お疲れ様でした」
私は頭を下げ、作戦室を出た。三階に上がり、鍵を開け、部屋に入る。
「……………」
灯りのついていない静かな部屋。首に巻いているストールを外し、制服を脱いで寝巻きに着替え、ベッドに俯せに倒れ込む。
「"無駄な努力"か…」
ぽすっと枕に顔を埋める。
「(そんなのはわかってる…。でも、諦めたくない。)」
鳥籠の鍵は決して自分からは開けることは出来ない。目の前に青空が広がっているのに、飛び立つことすら出来ない。それでもいつかきっと、自由になれる日が来ると信じている。
「そう…いつか…」
鳥籠の鍵が開いて、綺麗な羽根で空を自由に飛ぶことができたら…
「その時は…───」
すぅ、と眠気が襲い始め、私は深い眠りに落ちた。
next…