第3章 初めての巡回-ジユウ-
「こんにちは、笹乞さん」
「(古書店…。紙の匂いがする…。)」
「……………」
鴻上さんの声に、店の奥にいた男性がちらりとこちらを見た気がした。
───なのに、それきり返事がない。
「笹乞さん、お邪魔します」
「…ああ、あんた達だったんだ。
気付かなかった、ごめんね」
「(絶対聞こえてたでしょ。)」
するとみんなの後ろにいた私に気付いた彼が小さく眉を顰めた。
「…何か、また見掛けない人がいるけど」
「…あ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。立花詩遠と申します。本日よりご一緒させて頂くことになりました」
「…どうも」
「(明らかに歓迎されてないな…)」
決して不潔というわけでもないのに、店の空気も何処か湿っていて重い。
「大して役に立ってない割には、また新人を増やしたりするんだね」
「(今のは流石に彼らに失礼…)」
「如何ですか?稀モノらしい本は流れてきてますか?」
鴻上さんはそんな態度など慣れたものだと言いたげに、無表情に言葉を続ける。
「ないよ」
彼は、少し癖のある髪の先をいじりながら答える。
「他に何か情報などありませんか?
どんな小さなものでも構いませんので」
「そんなものがあったら聞かれる前に教えてるって。そんなにボクが信用出来ないの?」
「念のため、ですよ。店の中の本を少し拝見しますね」
「どうぞ」
鴻上さん達が、棚の本を数冊抜き出し、ぱらぱらと捲り始める。
私も棚から本を抜き出して、ページを捲る。
「(本に色が宿る…)」
ツグミちゃんは、本に書いた人の情念や思念が光として宿るアウラが見えるらしい。
それは、弟さんの事件がきっかけだと言っていた。
稀モノに宿る感情の色。
それが見えない私は、彼らにとって、どんな価値があるのだろう…。
「(そういえば…彼から与えられる本は、いつも主人公が"死ぬ"結末だったっけ…。)」
最初に与えられたのは
主人公が見知らぬ誰かに殺される物語だった。
次に与えられたのは
主人公が最愛の人を守って犠牲になる物語。
最近読んだ本は…
「(…どんな結末だったっけ?)」
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