第41章 天地神明にかけて・再-プロポーズ-
──そうして、帝都を混乱に包んだ『炎の怪人』の事件は遂に幕を迎えた。
隠さんの裁判はまだもう少し先らしい。けれど本人が反省の色を示しており、量刑は考慮されるだろうとのことだった。
そして長谷君は素直に取り調べに応じ、自分が5年前に引き起こした事件は『故意』では無かった事をおじい様に打ち明け、彼もまた、量刑は考慮されるらしい。
「ううーん…どう見てもこれは胸が見え過ぎでは…?」
事件解決のご褒美に、私達は一週間の休みを得た。そしてその最後の日、私はずっと鏡を睨んでいた。
「…ビリヤード仲間のパーティーに私がおめかしする必要ってあるの?」
『あのさ!明日ちょっとしたパーティーがあるからこれ着て遊びにこいよ!絶対な!』
そんな誘いの言葉と共に、彼が私に手渡したのは大きな箱。中に入っていたこのドレスが、とても上等で美しいのは間違いない。
首の跡を隠せるスカーフとも色合いが良い。
───けれど。
『っていうか男はみんな好きだろ!!胸が!!』
「…これは意地悪なの?葦切さんの言葉を信じていたのを、根に持ってるの?」
『俺は胸の大きさで価値をはかるようなそんな心の狭い男ではない』
「…やっぱり恥ずかしい。でも絶対にこれを着てこいって言われてるし…」
どうにも慣れないドレス姿の自分を見て、気恥しささえ覚える。
「!」
鏡を見つめているとピアスがキラリと光った。
約束を忘れないためにずっと付けていた茜色のピアス。自分の幸せを望めない私にとって、唯一の戒めのような役割を果たしていた。
「…仕方ない、行こう」
耳から外したピアスを机に置き、部屋を出た。
✤ ✤ ✤
「あ!立花さん!いらっしゃいませ!お待ちしておりました!」
「こ、こんにちわ」
店に入るなり、篠田と呼ばれていたあの青年が私に深く頭を下げた。
「隼人さんも今、準備中ですよ!今、紅茶をお持ちしますね!」
「(な、何…?)」
店内はあのビリヤードの試合の時のように沢山の人で賑わっている。
ただ──何故か彼等が私を見て、笑っているように見えるのは自意識過剰だろうか。
「(…やっぱりドレスにスカーフは変だったかな。)」
「よう!」
「あ!」
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