第36章 ご褒美の味-シアワセ-
「………!」
「聞いてみたいことがあるんだ」
「な、何?」
「調理実習の時の卵爆発事件って?」
「葦切さんから聞いたの!?」
「いつか聞こうとは思ってた。でも俺に関する不名誉な発言を信じていた罰として今日、ここで答えてもらう。拒否権はない」
絶対に口にしたくない───と思うものの、どう逃げ道を探しても無駄なものも分かった。
「…割った生卵を爪楊枝で穴を空けるのを忘れたまま電子レンジで温めてしまったの。そしたら爆発して電子レンジを壊した…ていう事件」
「……くくっ」
後ろで彼が笑いを堪えてる気配がして、申し訳ないと思いつつ葦切さんを呪わずにいられなかった。
「…じゃあ、女学校時代の2時間お説教事件は」
…非道い…柾さん…
「…床掃除を終えて水の入ったバケツを捨てようとしたら躓いてしまって、目の前を歩いていた男性の先生に思いきり掛けちゃったの。その上、手から離れたバケツが先生の頭にすっぽりハマって…2時間お説教をされたの。それだけだよ、それだけ」
「あはははは!!」
「(柾さんと葦切さんの馬鹿…!)」
「ははは!いやいや可愛いな、想像すると」
「笑いながら言われても」
「他には?」
「もうありません」
「女学校時代のお前はドジっ子だったんだなぁ」
「でも今はそんな粗相もしないし、料理だって上達したよ。みんなに好評なの。」
「じゃあ今度、ポテトサラダ作って。……今の事件が終わったら」
「………あっ」
言葉の終わり、不意にきつく抱き竦められる。
「大丈夫だよ、俺の仕事と役目はちゃんと分かってる。俺が今やるべきことは…犯人を捕まえることだ。もうこれ以上、被害を増やさないこと、この一連の事件を…終わらせること。それはお前もそうだよな」
私は言葉なく頷いた。
「ただ……───もし今日、何も事件が起きなくて、無事に一日が終わったら…夜にまたここに、ご褒美をもらいに来てもいい?」
返事など出来なかった。答える前に、彼が私の唇を塞いだせいで。
next…