第33章 茜色の再会-ジケン-
《…驚かないんだな。つまり、お前はその人物を少なからず疑っていたということだろう?》
「……………」
《稀モノ…本当に恐ろしいな。》
「長谷君は…黒い本を私に見せたよね?」
《それがどうした?》
「あれは…普通の和綴じ本だったの?それとも…稀モノ…だったの?」
瑞希の葬式の日、彼は一冊の黒い本を私に見せてくれた。
『この本はどうだ?』
何の変哲もないただの和綴じ本に見えた。だから疑わなかった。でも…今思えば、長谷君が最後に言った『やはりな…』の言葉がどうにも引っかかる。
「もし…あの本が稀モノなら…どうして長谷君は稀モノを持っているの?何であの世界に…稀モノが存在してるの?」
《『お前は知らなくていい』。僕はあの日そう答えたはずだぞ。》
「それでも知りたい。何も分からないから、知りたいの。この世界のこと。稀モノのこと。そして…長谷君が私に隠してる秘密を。」
《…僕が隠しているのは、お前とあの時に交わした秘密だけだ。》
「!」
《僕とお前は"ある秘密を共有している"。その秘密がもし、クロエに知られたらどうする?》
「っ、駄目!!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
「彼女には言わないで…。私達の秘密がバレたらあの子は…」
《なら、僕の言いつけを守れるな?》
「……………」
《僕との関係は知られないようにしろ。バレると色々厄介だ。特に…あの尾崎隼人にはな。》
「隼人…?」
《お前が知りたがっている秘密は、いつか総て話そう。それまでは彼らと残りの時間を過ごすと良い。思い出にはなるだろうからな。》
「……………」
《それじゃあ、良い夢を───。》
ぷつり、と通話が切られた。
「……………」
力の抜けた私はベッドに座り込み、虚ろな瞳で一点の壁を凝視し続けた。
「"夢から醒める時間"…か」
一気に現実に引き戻された気がした。彼との幸せな日々も、フクロウとして過ごした日々も、元の世界に戻れば、それは全て断たれてしまう。
「隼人……───」
瞼を閉じると、涙が溢れた…。
next…