第30章 口は災いの元-コマドリ-
その日は、私はフクロウに入って初めての非番だった。細々とした雑用を済ませた後、街に出て、デパートで買ったスカーフを首に巻き、歩いていた。
「(首元が隠れて良かった。流石にアパートの中でストールを巻いてるのは不自然だし…。これがハイネックだと最適なんだけど。)」
「お嬢様ー!」
街中で名前を呼ばれ、振り返ると、立花家の使用人が走って駆け寄って来る。
「こんなところでお会い出来るなんて!」
「本当だね。そっちは何か用事?」
「旦那様に頼まれた仕事を終えた帰りなんです。お嬢様は非番なんですか?」
「うん。デパートに寄った帰りなんだ。そうだ、お昼まだ?どこかで食べない?」
「お嬢様のお誘いを断るなど致しません!
喜んで同行させて頂きますわ!」
「じゃあ行きつけのカフェに行こうか」
「はい!」
フラマンローズに向かって歩き出す。
「そう言えばお嬢様。先程、若い女性がこんなビラを配っていたのですが…」
「ビラ?」
一枚の紙を渡される。
【迷子の駒鳥を探しています。】
「駒鳥……?」
【特徴:硝子みたいに綺麗な眼です。】
「硝子みたいって…どんな眼なの…」
【いなくなってすごく心配です。もしかしたらお腹を空かせてどこかで休んでいるかも知れません。見かけた方は下記の番号までご連絡下さい。】
その下にはPs.と書かれていて
更に言葉が続く。
【“さぁ駒鳥、夢から醒める時間だ”】
「………………」
「お嬢様…?」
それはまるで特定の誰かに向けられて書かれた言葉だった。彼女が私の名前を呼ぶ。けれど今の私の耳に彼女の声は届かない。
「夢…から…?」
茫然と口から言葉を吐き出す。
「駒鳥……」
「え?」
「行かなきゃ…」
「あ、お嬢様!」
ゆっくりと歩き出した私に驚いた使用人が慌てて腕を掴む。
「急にどうなさったのですか!?」
「………………」
目は何も映しておらず、不審に思った使用人が名前を呼んだ。
「詩遠お嬢様!!」
「!」
そこで、ハッとする。
「…大丈夫ですか?」
「あ……うん、大丈夫。
少しぼーっとしてた」
笑って誤魔化す。
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