第28章 マーマレード-アサゲ-
「すっごく美味そう!!」
───翌朝。
彼はテーブルの上の料理を見るなり歓声を上げた。
「しかも具が入った味噌汁だ!」
「…入ってないお味噌汁なんてあるの?」
「いつも食べてる坂の定食屋のには殆ど入ってない。ただ安いし早いしいつでも開いてるし、そこは有り難いと思ってるよ。早速いただきます」
そう言った彼が胸の前で丁寧に手を合わせる。私はそんな仕草に、彼の根っこの部分を見た気がした。
常に真っ正直で、その勢いで少しきつい言葉が出る。その上、歩きながら物を飲んだり食べたりと、ともすれば粗暴に見えてもおかしくはないのに、彼はそう感じさせない。
それは明るさのせいだと思っていたけれど、今やっと分かった。
彼の中にしっかりと根付いている、この誠意と礼儀正しさが彼に品を与えているのだ。
「…旨い!!」
「口に合ったのなら良かった」
「あとこのポテトサラダももしかして立花が作ったの?」
「うん、そう」
「やっぱりそうなんだ!たまに冷蔵庫の中にポテトサラダが作り置きされてるから多分そうなんだろうなって。そもそも台所で料理してるのなんて立花と久世だけだし。あ、たまにあの雉子谷さんがいるか」
「料理は得意な方なの。作るのが楽しくて、お陰様で好きに使わせてもらってる。ポテトサラダはね、母がとても上手なの。それを教えて貰って作ってるんだ」
「立花のお母さんって何してる人なの?」
「専業主婦。いつも家の事で忙しそうにしてたけど、時間がある日には料理教室に通って、習った料理を夕飯とかで振舞ってくれるの。私も母にいろんな料理を教わったよ」
「へえー!だから立花も料理上手なんだな!」
「それに自炊もしてたから自然と料理が上手くなっちゃって。これでもみんなに評判なの」
「うん、すごく優しい味がする」
「!」
「今も昔も変わらない立花の良い所。俺はそんなあんたの優しさが好きだよ」
「…………っ」
朝食の最中だというのに、私は危うく箸を落としそうになる。
「で、でも…は、隼人が…す、好きになったのは…ベンチで本を読んでいた大人しい…私でしょ?」
目を合わせずにそう問うと、彼は即答した。
.