第27章 彼とコロッケ-リソウ-
「こんにちは、笹乞さ……」
「………!」
「…………っ」
店に入ると、見知らぬ男が不機嫌そうに顔をしかめた。
「……では」
男がバッグを抱え、足早に店から出て行く。笹乞さんは何の挨拶もせず、ただ立っている。
「あの、お話の最中に申し訳ありま…」
「ただの客だよ」
「そうですか…」
「…ところで、今日ってあんた一人なの?」
「そうなんです。如何ですか?
和綴じ本は入ってますか?」
「あるわけないだろ」
「…そうですか」
「あーあ、あんたの顔見たらやる気なくした。
もう店閉めよーっと」
「待って下さい」
「待たないよ。そういうわけだから出てって、もう用は済んだろ」
「まだ済んでません。ちゃんと話しを…」
「正直、顔を見るだけで苛つくんだよね。見張られてるみたいでさ。どうせまたボクが書いた本が稀モノになって、悪いことが起きると思ってるんだろ?」
「そんなわけ…」
「ボクを悪者にしたくて仕方ないんだよねぇ?」
「笹乞さん、私達はそういうつもりでは…」
「出てけよ、ほら!」
「きゃ……!」
笹乞さんはぐいぐいと私を店の外に押し出し────。
扉を閉め、カーテンまで閉めてしまった…。
「はぁ…失敗したか」
大きく溜め息を吐き捨てる。
───それから約一時間後。
私は気分転換も兼ね、お昼にフラマンローズでチョコレートパフェを食べていた。
「はうあー、美味しい!」
口内に広がる甘さが疲れ切った私の心を癒す。
「やっぱり甘いものだよね♪」
スプーンを口に含んだまま、笑みを浮かべる。
「あの…もしかして立花詩遠さん?」
不意に話しかけられ、視線を向けた。
「やっぱり!」
「貴女は…柾小瑠璃さん…ですよね?」
「ええ、覚えていてくれて嬉しいわ」
彼女は柾小瑠璃さん。女学校時代の先輩だ。といっても、話したことは一度もない。まさか彼女とこんな場所で会うとは思わなかったが…。
「よければ相席いいかしら?」
「え…はい、もちろんです」
「あ、社の先輩もいるんだけど大丈夫?」
「どうぞ」
「では失礼します」
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