第25章 天地天明にかけて-ヒトメボレ-
「信じてくれ!
俺は本当にあんたのことが…!」
「この店で婦女暴行は止めてくれ。合意ならいいけど。つーか合意なら俺も混ぜろ」
「く、杙梛さん!?」
「まだ何もしてないよ!」
「じゃあ、近いうちする気なんだな」
「あ、あの私、失礼します…!!」
「あ、おい……!!」
私は慌ててその店を飛び出した。
✤ ✤ ✤
「はぁ……っ、はぁ……っ」
一目惚れ?
隼人が?私に?
「あ、私仕事中…!」
はっと我に返って、立ち止まる。
「引き返す勇気もない…」
隼人が私に一目惚れ…
女学校時代の私を…見てた…?
「そんなこと一言も…」
『初めまして、尾崎隼人と言います』
「(そうだ、あの時、名前…)」
『知り合いが名前を偶然知ってて、教えてくれて』
「(最初から名前を知っていたの…?)」
『俺、立花に一目惚れしたんだ』
「!!??」
耳の奥で先刻のあれが勝手に聞こえて
思わず悲鳴を上げそうになる。
「まさか…私に一目惚れなんて…」
手のひらを見つめると隼人に触れられた時のことを思い出す。
「(急に握られても恐怖心はなかった。やっぱり隼人には触られても平気なんだな。)」
嬉しい気持ちはあったが、すぐに悲しげに瞳を揺らす。
「隼人は…見る目がないな。私なんかを好きになったって…幸せになれないのに」
まるで自分自身を嘲笑うように吐き出し、私は傍らの壁に背を付け、顔を伏せる。
「(一目惚れなんて…きっと勘違いに決まってる。)」
「……───立花」
「!?」
はっと顔を上げると、彼は少しばつが悪そうな顔で立っていた。
「取り敢えず、仕事しよう。な?」
「あ…ご、ごめんなさい…」
「杙梛さんのところには和綴じ本も稀モノもなかった。次に行くぞ」
「はい……」
そう、私はフクロウなのだ、今は仕事中なのだ。こんなことで動揺して逃げ出している場合ではないのだ。
こうしていつも通りに巡回していれば落ち着くかも知れない───そう思った時。
「さっきの話はまた改めて」
「………!!」
やはり───なかったことにするのは難しいようだった。
next…