第25章 天地天明にかけて-ヒトメボレ-
「……あ」
「あ、おはようございます、燕野さん!」
「おはようございます」
「今日もこっちで巡回なんですか?」
「あ、いえ…今日はちょっと朱鷺宮さんに」
作戦室に入って来た燕野さんの顔色が曇っていて、元気がないように見える。
「おっはよー!今日もいい天気だな」
「尾崎さん!……おはようございます」
次に入ってきた隼人にも頭を下げる。けれどやはり、いつもの覇気がない。
「…燕野さん。私の気のせいかも知れませんが、元気…ないですか?」
「!?い、いえいえ滅相もない!!自分は非常に元気であります、大丈夫です!!」
「なら、いいんですけど…」
「大丈夫です、いつも通りであります!
自分などにお気遣いは不要です!」
「(とは言っても、明らかに…)」
私は隼人と顔を見合わせた。
✤ ✤ ✤
「燕野さん、大丈夫だと思う?」
今日も隼人と巡回だった。
杙梛さんの店に向かって歩きながら
私はつい尋ねてしまった。
「本人が大丈夫って言うならしゃーない。取り敢えず様子見。もしかして腹壊してたとかかも知れないし」
「……そう?」
「言いたくても言えない事情なんだろ。まぁあいつも誰かさんと同じで顔に出やすいから、こうやってバレるんだけど」
「それってもしかして…」
「ほら、着いたぞ」
✤ ✤ ✤
「ちはー……あれ、いない」
「珍しい」
店の中は静まり返り、誰の姿もない。
「杙梛さーん!いますかー?」
店の奥に声を掛けてみるも、やはり返事はない。
「散歩にでも出てるのかもな。あの人戸締りとかそういうの全然気にしないから」
「…不用心。泥棒にでも入られたらどうするの…」
「というかそもそも、この店を金儲けでやってるのかが微妙。こんなふうに来てもいないことなんてよくあるし」
「そ、そうなの…?」
「まぁいいや、少し待ってみよう」
私は頷き、一番近くの棚を眺める。
この店は本やら小物やら手広く扱っているものの、品揃えが来る度に微妙に違っていて面白い。
「(…このイヤリング可愛い。)」
舶来品だろうか。
貝で花びらを象った可憐な細工だ。
.