第24章 二つめの予兆-ビリヤード-(√)
「そうなんですか?」
「今やってるのもそうだろ、このまま相手に一突きもさせないまま勝つ気でいるさ」
「隼人、凄くビリヤードが強いんですね」
「とても」
「…初めて知りました」
「俺もさ、結構腕には自信あるんだけど、どうもあいつにだけは勝てないんだよなぁ。悔しいけど。でもまぁ不思議と負けても悔しくない。あいつは人の上に立つ才能を持ってるよな」
「…人の上」
「そればっかりは努力でどうにかなるもんじゃないからな。あいつはあいつなりに平等だって唱えてるけど、俺から見たらあいつも間違いなく『選ばれし者』だと思うよ」
「……………」
杙梛さんが言いたいことは、ぼんやりと理解出来た。実際、彼はフクロウの中でもまとめ役だ。
持ち前のあの明るさとほんの少しの強引さ、揺るぎない正義感で、私達を引っ張っていく。
「というわけで、あいつの勝利の女神は廃業して俺に乗り換えろよ。大事にするから」
「またそんなこと言っ…」
その瞬間、鋭い球の音が響き渡り、続いて店内が歓声に包まれる。
「立花!!見てたか!?勝ったぜ!!」
「!!」
「ほら、な?」
杙梛さんが私を見て笑って言った。
✤ ✤ ✤
結局、彼はその夜総ての試合に勝利して、優勝者となった。店を出てバスの停留所に向かう彼は、いつもより機嫌が良さそうだった。
「退屈しなかった?」
「全然!とても楽しかった!」
「良かった」
「でも本当に強いからびっくりしてたの。あれなら応援はなんて要らなかったんじゃ…」
「そんなことないよ」
「え……?」
「……あ、いや。ごめん、正直言えば勝つ自信はあった。ただ俺が立花をあそこに連れて行ったのは…仕事以外の俺を見て欲しかったんだ」
「そ、そう…なの?」
何故、と。言い掛けて私は言葉をぐっと飲み込む。首筋のあたりが何だかちくりと疼く。
「あ、バス来た!ほら乗るぞ!」
「う、うん…!」
並んでいた人混みに押され、それきり会話は途切れてしまう。そしてバスを降り、アパートまで歩く間も彼はもうそのことは───触れなかった。
next…