第22章 月に行きましょう-アイノカタチ-❤︎
まだ、少し実感がなかった。彼がこのアパートに、この部屋に戻って来たということに。滉が戻ってきたら色々話そうと思っていたことがあったのに、言葉が出てこない。
「…きました」
そうして私が彼の横に立った時だった。
「……───消えるかも知れない」
「え?」
「いや、多分…消える」
「な、何が?」
彼はシャツの上から脇腹をそっと探った。
「あいつに撃たれたところ…刺青の場所だった」
「あ……っ」
「きっと火傷みたいな跡は残るだろうけど、でもあの黒い羽根はきっともう見えない。偶然に決まってるけど、最後にたった一つだけ俺のためになることをしてくれたよ」
「…そっか」
彼の身体に黒い羽根が刻まれていても、私の心は変わらなかったはずだ。けれどそれで彼が安堵するなら、終わったと思えるのなら────。
「傷は痛む?縫ったりもしたんでしょう?」
「そんなのは別に…大したことじゃないよ」
彼が私を引き寄せ、抱きしめる。
「…あんたを、誰かに奪われる痛みに比べたら…っ」
「……んっ」
唇が触れた瞬間、私の体が勝手に思い出した。
あの夜の彼の吐息や体温や、肩の骨の感触を。
「…あ、きら」
「…うん」
「滉…っ!」
彼の首に腕を回して、もう一度、口付けをする。きっと私の目は涙で潤んでいるだろう。嬉しくて顔が緩んでいるだろう。
優しい彼のせいで────。
「……ああ、やっぱり全部吹っ飛んだ」
「え……?」
滉は私に口付けながら
ほんの少し不機嫌そうに言った。
「病院って何もすることがないんだよな。本を読むか、考えごとするか、それくらい。だから、次にあんたの顔を見たら、ああ言おう、こう言おうって色々考えてたんだけど…いざこの部屋に来て、こうしてあんたに触れたら……───吹っ飛んだ」
「そ、そんな…それは是非思い出し…」
「……ん……っ」
「んぅ……っ」
最後まで言わせてはもらえなかった。再びきつく唇が重ねられ、彼の指が私のブラウスの裾を探る。
「…良かった。
またこうして…あんたに触れられた」
「滉……っ」
「奪われずに…失わずに…済んだ」
.