第22章 月に行きましょう-アイノカタチ-❤︎
───それからの帝都は暫く賑やかだった。
葦切さんが書いた四木沼喬を取り巻く黒い真相の記事は、一時帝都を賑わせた。
そして─────。
「こんにちは」
「おう、今日もご苦労さん。
新しい和綴じ本が一冊あるぜ」
「本当ですか!」
「俺が見た感じじゃ稀モノではなさそうだが…でもまぁ、この調子じゃまだまだ地味に和綴じ本は入りそうだな」
「派手に入れてくれてもいいんですよ」
「抜かせ、それは俺の仕事じゃないだろ」
手にしたそれにアウラはない。けれどまだ墨の匂いがする真新しいその本が嬉しくて、いっそ抱きしめたいくらいだった。
「そう言えば、そろそろ滉が退院してくるって聞いたが」
「そうなんです!今日ですよ!
午後にはアパートに着くと聞いてます」
「そうか!じゃあ、明日にでも祝い酒といくか」
「いいですね、お待ちしています」
「これからもいるんだろ?」
「…その、はずです」
朱鷺宮さんと警察の間で、どういったやり取りがなされたのか私は知らない。けれど深い傷を負い、入院していた彼が今日『あそこ』に戻ってくる。もうそれだけで充分だった。
「今日は満月らしいぜ」
「!!」
「酒飲みながら月を眺めるのも良いかもな」
「(満月…)」
「ん?どうしたお嬢さん?」
「いえ、何でもありません」
咄嗟に笑みを作って誤魔化した。
「……と、そうだ。滉と言えば……────」
✤ ✤ ✤
「(……いない。)」
アパートに帰ると、ホールはがらんとしていた。灯りこそついているものの、誰もいないしいた気配もない。
「(てっきり誰かと話してると思ったのに…)」
今日ばかりは午後7時きっかりに仕事を切り上げるつもりだった。けれど最後のお店で世間話に捉まってしまい、バスに乗り込むのが遅くなってしまったのだ。
「(それともみんなまだ戻ってない…?
滉はきっと…部屋で休んでるんだよね。)」
私は少しがっかりしながら部屋に戻った。
「…こんな時くらいは部屋を訪ねてもいいものなのかな」
着替えてから既に15分程
私は部屋の中をうろうろしていた。
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