第21章 この世で一番美しい炎-マモルモノ-
───翌朝。
瞼を開けた時にはもう彼はいなかった。
いつ眠りに落ちたのかも覚えていない。ただその瞬間、確かに彼の中にいた気がしたのに。
「………………」
ただ、独りで眠る夜よりも乱れて皺の寄ったシーツがあれが夢でなかったと物語っていた。
身支度を整えて、私はアパートの外に出た。もしやまた、鴉の羽根が撒き散らされているのではと、不安だったのだ。
「滉!?」
薄い朝靄が消えかける中、滉が立っていた。
「……………」
その手には────封筒。
差出人を問うまでもなかった。
「…あの人からだよね。何て書いてあるの?」
手渡された便箋を開くと、中にはたった一言こう記してあった。
『今夜10時 地下して』
「…これって…」
「あんたはもう忘れろ」
「え!?あ……っ」
滉は私から手紙を奪い、苛立たしげに丸める。そしてそのまま無言で立ち去ろうとするのを、私は慌てて引き留めた。
「待って!独りで行くなんて絶対に許さないから!」
「忘れろ」
「…滉は勘違いしてる」
「…勘違い?」
「もう私だけ…ううん、私達だけの問題じゃない。滉だけで背負うものじゃない」
「……………」
「滉は…私達が…フクロウが嫌い?」
「何言って…」
「もうここにいたくない?私達から離れたい?
二度と顔も見たくない?」
「…ああ、ここになんていたくな…」
「私はいて欲しい」
「………!」
「ずっといて欲しい、ここに」
「っ、」
そっと彼の手を握ると、ほんの一瞬、躰を強張らせたが、その手は振り払われなかった。
困った表情の滉を見て、私は笑んだ。
「ねぇ滉」
「……何」
「私は貴方が好き。貴方をとても大事に思ってる。昨日言ったよね?」
「……………」
掴んだ手を離されないように、しっかり繋ぐ。
「貴方がこの世からいなくなってしまったら…私はこの世界で生きることを拒絶してしまう」
「!」
「私に幸せになる権利をくれたのは滉なんだよ。だからね、貴方は私と一緒に幸せになるの」
「!!」
「私が滉にたくさんの幸せをあげる。これからもずっと。嫌ってくらい、あげる」
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