第17章 獲物-キョウハク-
どうにかそれだけ口にしたものの、そこから先の言葉が全く出て来ない。
「…お嬢様?顔が…真っ青ですよ?」
「そ、そう?何でもな…」
彼女にはまさかあんなこと話せない
笑うの…笑って…心配掛けないようにしないと…
必死に言い聞かせても、何かがせり上がって来て息がつまる。
「な……!」
「……っぅ……」
きつく唇を噛んでも、涙は溢れてしまった。慌ててハンカチを取り出すも、拭っても拭っても新しい滴が滲んでくる。
「…ど、どうなされたのです?」
「ううん…大丈夫…いきなり泣いてごめ…」
「お嬢様…」
「私…嘘吐きなの」
「え?」
「おじい様にも貴女達にもフクロウのみんなにも…言えない秘密があるの。その秘密が知られてしまえば…誰も私のことを信じなくなる」
「……………」
「彼も私のことを…信じなくなる」
「(彼……。)」
「私はもう…彼のことが、分からない…っ」
「お嬢様、落ち着いて下さい。その彼と…喧嘩でもなさったのですか?」
「…似たような、もの」
「そうだったのですね。
理由をお聞かせいただいても?」
「ご、ごめんね…それはちょっと。彼の個人的な事情にも関わることだから」
「…そうですわね」
彼女は小さく肩を竦め、小さなスプーンでカフェモカをかき混ぜた。
「でも、そう悪い人には見えませんわ」
「……………」
「この間、彼のことを何処かで見たような気がしていたのです」
「え?」
「それで思い出しました。私、雨月堂の前で彼に助けられたことがあったのです」
「そうなの!?」
「旦那様に頼まれてエクレアを買って帰ろうとした時、酔っ払いに絡まれてしまいまして。…近くに車は止めてあったのですが一人でしたので…」
「怪我は?」
「ありません。その時に追い払ってくれた方だと思います。向こうも覚えてないだろうし、私ももうすっかり忘れておりました」
「そんなことが…」
「あんな酔っ払い、回し蹴りで撃退できましたのに」
「え……」
「それか背負い投げで一発です」
彼女は頬に手を当て、平然と言ってのける。
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