第14章 幾つもの囀り-フイウチ-
そして───午後9時。
私達はまさに祈るような気持ちで隼人が戻ってくるのを物陰に隠れて待っていた。
少し離れた場所には、大勢の警察官も待機している。裏口から彼が入って行ってから、まだ15分。けれど凄まじく長い時間が経った気がしていた。
「…それにしても、ここは何度見ても豪華な建物ですよねぇ。お客さんも沢山入ってるようですし」
「会員制の高級クラブみたい…」
「ここに通っている人の総てが悪人とは思いたくないですが…」
「幾ら何でもそれは考え過ぎじゃない、翡翠?普通にダンスやお酒を楽しみに来てる人達の方が多いはずだよ。…それに、稀モノを欲しがったからと言って悪人と決めつけるのも良くないと思う」
「…確かに、そうですね。申し訳ありません、少し敏感になってました」
「でもまぁ、俺は正直、こんな店に集まってる奴なんてみんなろくでもないと思ってるけど」
「……滉」
「だってここって会員制なんだろ?ってことは薄々事情を理解して入会すると思うんだよ」
「そ、それは…」
「それって犯罪行為の片棒担いでるようなもんだと思うけどな。同じ穴の狢ってやつ?」
「………………」
みんなが押し黙ってしまった、その時。
「たっだいまー」
「隼人!良かった、生きてた!」
「ひ、翡翠…」
「殺すな。…っていうか、出来る限り覗いてみたけどそれっぽいのに出くわさなかった」
「ああ〜……」
気を落とすように燕野さんが残念そうな声を出す。
「廊下で、危うく四木沼喬と擦れ違いそうになってさ。これ以上は危険だから退散してきた」
「お疲れ様、隼人。無事で戻ってくれたならそれだけでいいよ。…燕野、今夜は引こう」
「そうですね、それが良さそうです。もし買収したことまで気付かれてしまったら彼も危ないですしね」
「うーん、でも惜しいと言えば惜しいですね」
「引いた方がいいよ、きっと罠だ」
「……───もしくは、俺達の動きが向こうに流れたか」
「えええ!?」
「いや、燕野やその仲間を疑うわけじゃないよ。ただ直接密告したとかじゃなくてもさ、やっぱりあれだけの人数動かしたら勘付かれてもおかしくない」
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