第13章 月に憧れて-ﾕﾒ-

「寝返ったと見せ掛けて、俺達を一網打尽、とか」



「その可能性ももちろん考えている。だからまず、隼人に仮面を着けてもらって裏口からこっそり客として中に入ってもらう」



「なるほど…」



「滉はもしもの時のために、一応制服じゃない方がいいだろう。他の者も私服で。そこで本当にオークションが行われているのなら、踏み込む。…罠だったら、隼人の無事を祈る」



「だ、大丈夫なんですか…そんな…」



「あいつの悪運を信じるしかないな。…と、そうだ、立花。あれ以来、どうだ？妙な奴に出くわしてないか？」



「それなんですけど朱鷺宮さん、実はあの誘拐が起こる前から怪しい男に付け狙われてたみたいなんです」



「何!?」



「まぁ、本人はそんな奴がいることすら気付いてなかったみたいですけど」



「！！」



「犯人は？」



「立花も心当たりがないって言ってます。ただ昨日会った男性の話だと、その男は俺より身長が低かったてことしか分かってないです」



「…そうだったのか」



「あ、あの待って下さい！あの方はそんなこと言ってましたけど、もしかしたら気のせいかもしれないし…！」



「どうなんだろうなぁ…少なくとも、今までカラスがうちの『誰か』を明確に狙ったことはないんだ」



「…そ、そうなんですか…」



「立花もそろそろ独り立ちしたいだろうが、念のためもう少し様子を見させてくれ」



「は、はい、それは…」



「それとも滉に意地悪でもされたか？事情が事情とはいえ、ずっと同じ人間と組んでると慣れて気が抜けるだろう。そろそろ翡翠か隼人と組むか？」



「(えっ…)」



咄嗟のことで言葉が出なかった。



「彼女が迷惑でなければ、俺が引き続き見張りますよ」



「…………！」



だから───彼のその言葉を聞いた時の私の胸の中はとても複雑だった。



「大丈夫ですよ、彼女は俺なんかよりずっと真面目です。気が抜けるどころか、まだまだ緊張してますよ」



「はは、そうだったか。滉も珍しく人と一緒にいる気になっているようだから、引き続き頼もうかな」



「はい」



「…が、頑張ります」



なんとか笑顔を作って、ぎこちなく笑んで見せた。



next…