第1章 空の瞳の少女-トリップ-
───大正二十五年、トウキョウ府。
「仕事の合間に帰って来たぞ!」
「…おじい様」
「元気で過ごしておるか!愛しの孫娘よ!」
窓際に置かれた椅子に腰掛け、ミステリー小説を読んでいたところに、現日本国で警視総監長を務める義祖父が、部屋のドアを少し乱暴に開け、訪ねて来た。
「元気ですがドアを開ける際はもう少しお静かにお願いします。壊れたら修理費が掛かって大変なのですよ」
「おぉ、それはすまなかった。だが数ヶ月ぶりに会えたのだ!嬉しくて気が急いた!」
「それと女性の部屋を訪ねる時はまずノックをお願いします。着替え中だったら問答無用で叩き出してますよ」
「わはは!今度から気をつけよう!」
「何度目ですか、それ。」
豪快な笑いを洩らす祖父に"気をつける"という色は表情から察して窺えない。
「はぁ……」
悪びれる様子すら見せない祖父に呆れて溜息が零れ、読みかけの本に栞を挟んでから閉じ、椅子から立ち上がる。
「また新しい本を読んでいたのか?」
「おじい様が買ってきてくれる本はどれも面白くて何度も読み返してしまいます」
「そうかそうか。お前が気に入ってくれたなら儂も嬉しいよ。また買って来てやろう!」
「ありがとうございます」
お礼を言われたおじい様は嬉しそうだ。元々本はそんなに読まないのだが、ミステリー小説を読んだら見事にハマってしまい、それ以降、おじい様が買ってきたミステリー小説を読むようになった。
「今日はどんな御用ですか?」
「お前の様子を見に来たついでに、縁談話を持ってきた」
脇に抱えていた写真を差し出される。
「また縁談ですか…」
表情を沈ませ、小さい溜息を吐く。もう何度目だろうか。こうしておじい様がお見合い写真を手に屋敷を訪れるのは。
「今度の相手は最上級だぞ!ランクはSSS級!今までの男と違って顔は満点だぞ!性格も良くて頭も良い!」
「そこまでおじい様が推すなんて。しかも最上級のSSSランクですか。今までの男性とは比べ物にならないと?」
「今までの男など霞んで見えるわ」
「それはそれで可哀想な気がしますが…」
「きっとお前を大事にしてくれる!」
「……………」
「写真もあるぞ」
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