第13章 月に憧れて-ユメ-
「あ、えっと、用事があったり、一人で観たかったら全然断ってくれても大丈夫…!」
少し不機嫌そうな声に、私は思わず後ずさる。
「あ……」
「きょ、強制ではないので…っ」
しまった、と思ったがもう遅い。馴れ馴れし過ぎたと反省し、顔を俯かせる。
「…いや、ごめん」
「だ、大丈夫。私こそ突然誘ってごめ…」
「そうじゃなくて、その…驚いたんだよ。この間、あんたずっと嫌そうだったし」
「!?い、嫌そう!?そんなふうに見えた!?」
「見えた。ずっと俺に身体近付けないようにしてたし」
「…あれは!!…あ、あれは…その…」
彼女と映画館に行くことはあった。あったのだが…。
「は、初めてだったので…男性と映画を見るのは…き、緊張して…」
"彼"とでさえ一度も見たことがないのに
「…なるほど。じゃあ今夜にでも観に来る?」
「!うん、行きたい…!」
「それと、礼なんて気にしなくていいよ。普通は助けるだろ」
「…そ、そうなのかな」
「ただ、また夫婦席になるかも知れないけど。このあたりは夜いつも混んでるから」
「…うん。もう、平気」
彼の言葉に、今度はどんどん体温が上がってゆく。このままだとまた無言になってしまいそうで、私は慌てて告げた。
「…あの、でも私、昨日のお礼をちゃんと言ってなかったと思うの。助けてくれてどうも有難う」
「…礼なんていいって言ってるだろ。まぁとにかく、また誘拐されないように気をつけろよ」
「はい、気をつけます」
「それと…また今夜も『残業』すんの?」
「……………」
「昨日で懲りたろ。それでも続ける?」
「…私、アウラが見えないの。だから稀モノなんて見分けられないし、役に立ててるのか分からない…。でも…諦めたくないの。だから…探そうと思います…」
稀モノを探しつつ、本屋で元の世界に帰れる方法がないか、見つけたいって理由もあるけど。
「じゃあ、付き合う」
物凄く嫌そうではないけれど、かと言って大歓迎、という顔でもなかった。
書店主にあんな顔をされれば、滉でなくともそう思うだろう。
────けれど。
.