第13章 月に憧れて-ユメ-
「……詩……遠……」
深い眠りの中で、誰かの声が聞こえた。
「……遠……てば……」
私の名前を呼ぶ、懐かしい声。
「───詩遠ってば!!」
そう…大好きな彼女の声だ───。
「…あ、れ…?」
意識がハッキリとし、閉じていた瞼を開くと、最初に視界を捉えたのは、心配そうに顔を覗き込む、彼女の姿だった。
「ボーッとしてどうしたのよ」
「……瑞稀」
どうやら茫然と佇んでいたようだ。周囲を見回すと、壁に寄せられた本棚があり、そこには色んなジャンルの本が並んでいる。
「そっか…遊びに来てたんだっけ」
「もうしっかりして。せっかく彼が出かけて暇だったから詩遠を呼んだのよ」
「ごめんごめん」
「あの人は好きに寛いでくれていいって言ってくれたし、お言葉に甘えてそうさせてもらいましょう」
「今日は何をしてのんびりするの?」
「読書よ!紅茶を飲みながら好きな本を読んでまったりしましょ!」
「いいね。ならお互いに本を持ち寄って読書タイムにしよっか」
「賛成!」
「私はどんな本を読もうかな〜」
「詩遠は星とか月に関する本でしょ。図書館でもそういう系のやつ選ぶじゃない」
「よく知ってるね」
「長い付き合いなんだから分かるわよ〜」
子供の頃から星や月、星座や夜空が好きだった。家族で天体観測に行ったり、友達とプラネタリウムで星座を見たことがあった。
彼女──瑞稀とは中学のクラスメイトであり、周りに馴染めずにいた私に声を掛けてくれた大切な友達だ。高校でも同じクラスになり、私達の関係は親友と呼べる程の仲になった。
確か今日は洋菓子店のバイトが休みで、暇を持て余していた瑞稀に誘われて、彼の家に来たことを思い出す。
「?」
「詩遠?どうかした?」
「(なんだろう…この違和感。)」
「ねえ大丈夫?またボーッとしてるわよ」
「うん…大丈夫」
何か忘れている気がする。でも思い出せない。私は彼女に誘われて彼の家に遊びに来た。それで良いはずなのに…。
「(まぁ気にしなくてもいいか。)」
私は深くは考えず、思考を追い払った。
.