第8章 不快な笑い声-カラス-(√)
「ど…どうして…?」
「いや…同じ苗字だしそうなのかなって…」
心臓がギュッと縮まる感覚がした。どう答えようか迷ったが、上手い言い訳が思いつかず、仕方なく正直に打ち明けることにした。
「あー…うん、孫です。一応は、だけど…」
「一応?」
「実は今の家族とは血の繋がりはないの。学生の頃に両親を事故で亡くして以来、立花家に引き取られて…それでお世話になってるんだ」
「そうなんだ」
「あのね、お願いがあるんだけど…」
「?」
「私が立花宗一郎の孫だからと言って、変に気を遣ったりしないでほしいの。確かにおじい様は警察のトップで一番偉い立場にいるけど…よそよそしくなるのは苦手だから」
「別にあんたが警視総監の孫だろうと関係ないよ」
「!」
「あんたとその人は別の人間なんだし、生きる道だって違うだろ。少なくとも俺はあんたを特別扱いしないし、態度を変えたりもしない」
「…うん、その方がいいな」
ハッキリ告げた滉の言葉に少し嬉しくなった。
「やっぱり知られたくないから隠してるのか?」
「別に隠してるつもりはないんだけど…今言ったように態度を変えられても困るし、親しくもないのに近づいてくる人達もいるから厄介で…あまり言わないようにしてるんだ」
「…警視総監の孫って立場も大変なんだな」
「あはは」
女学校に通っていた頃は、おじい様との関係性が知られていたから、そういう目的で私に近付こうとする人間も多かった。
中には事件を起こして自分の立場が危うくなったから、孫である私からおじい様に証拠隠滅や事件の揉み消しを頼んで欲しいと言われたことがある。
もちろん、丁重にお断りをした。
だから私はおじい様の孫であることを隠している。知られればロクなことがない。へこへこと下げられる頭、態度を急変させる人間、しまいには…警察庁まで赴き、私の名前を使っておじい様に会おうとする奴もいた。
立花家やおじい様を巻き込む。
私はそれが嫌だった。
でも滉のように態度を変えない人もいる。彼の言葉が素直に嬉しかった。
「有難う」
「礼を言われるようなことはしてないよ」
「それでも…有難う」
だから今は、精一杯の感謝の言葉を…。
next…