第7章 ナイフと紺色の手帳-ヒヨクノトリ-
同じ刃物でも、包丁とは全く重みが違う。
けれど不思議なことに、握るとしっくりと掌に馴染むのだった。
「さて、これで一通りは説明したかな。私もひとっ風呂浴びてくるか。じゃあな、おやすみ。明日また」
「はい、明日からもまたよろしくお願いします。おやすみなさい」
✤ ✤ ✤
朱鷺宮さんと別れ、三階にある自分の部屋に戻る。ツグミちゃんの部屋の電気は消えていた。
「私はみんなに嘘をついてる…」
本当は違う世界から来たこと
犯してしまった私の罪
抱える秘密は多い
「比翼の鳥か…」
『お互いがいないと飛ぶことが出来ない鳥だ』
『君にもその比翼の相手を見つけてみてはどうかな。きっと君の幸せを守り、一緒に空へと羽ばたいてくれると思うよ』
「恋なんて…できないよ。私が幸せになることを…きっと彼は許さないから」
だから鳥籠に閉じ込めた
今でも鳥籠の中にいる『私』は
悲しそうに涙を流して泣いている
「私がみんなを騙してることを知ったら…きっと嫌われちゃうだろうな」
そう思うと胸がギュッと締め付けられた。
「ツグミちゃんにも嫌われちゃうかな…」
この世界に来て初めて出来た私の友達。とても優しくて純粋な女の子。弟さんのことが心配で仕方ないのに、それでも気丈に振る舞う強い人。臆病で最低な私とは全然違う。
「(誰にも知られなければいいな。私のせいでみんなが傷付くのは嫌だもの。秘密を隠したまま、元の世界に帰りたい…)」
そう願うばかりだ。
「まぁ…元の世界に帰れたところで、私の身体がどうなってるのかは知らないけど…」
ベッドに横たわったまま、等身大の鏡に写る自分を見つめる。下ろした髪は、元の世界にいた時より少し伸びていた。
「……………」
ここに来てから私が手に入れたものが増えた。
鞄の中身に加えて、制服、ナイフ、紺色の手帳。
今の私の側にあるもの。
それは───厳しくも優しい、みんな。
「どうしてこの世界に来たんだろう…」
私だけがこの世界の人間じゃない
彼らは同じ時代に生まれたのに
少し、寂しく思えた…
「…いつか、鳥籠から空へ、飛び立てる日を───」
【共通ルート終了】
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