第7章 ナイフと紺色の手帳-ヒヨクノトリ-
その朝も、私は当番で、アパートの前を掃除していた。
「(やっぱり空を眺めながら掃除するのって最高に気持ちが良い。)」
自分と同じ瞳の色をした空を見上げて笑う。
「(…そういえば鵜飼さんはどうなったんだろう。)」
「お前は使用人だったのか」
「!!」
後ろから声を掛けられ振り返ると、そこには不機嫌そうな顔をした鵜飼さんがいた。
「あの場にいたからてっきりお前もフクロウの一員だと思っていたが。まぁもっとも、女なんて大して働けもしないか」
「お言葉を返すようで恐縮ですが」
「!」
「いつの時代も男女平等に役割は与えられています。この時代の男性は女性への扱い方がなっていないんじゃないですか。それと私もフクロウの一員です」
「何…?」
私の態度が気に入らないのか、鵜飼さんは表情をしかめさせ、嫌悪の眼差しを私に向ける。
でも私はそれには屈せず、落ち着いた声で上辺笑いを見せ、話を続けた。
「女性は男性と違って色々忙しいんですよ。家事や育児に追われる日々が続くんです。それなのにろくに手伝いもせず全て女性任せ。大して役にも立たないのに"ご飯を用意しろ"だの"靴下がない"だの"お風呂が沸いてない"だのと文句を言う時だけは偉そうにして」
あぁ だめだ
口が止まらない
「自分の収入が良ければ女性を見下し、誰の金で生活出来てるんだと大層威張る。男なんてプライドの塊みたいな奴がほとんどです」
苛立ちが募り始め、その勢いは止まらない。鵜飼さんも最初はそんな私を見て驚いていたけど、今は物凄い目付きで睨んでいる。
「さっき…女なんて大して働けないって馬鹿にしましたよね?じゃあ逆に聞きますけど」
私は鵜飼さんの顔をじっと見つめた。
「貴方の代わりに仕事して稼いでくるから、家事は全部済ませて、赤ちゃんが泣いたらあやしてミルクをあげて眠らせて、ゴミはちゃんと分別して捨てて、帰って来るまでにご飯の用意をして、お風呂も沸かして、また明日も同じこと全部やってね!…て言われたら、鵜飼さん、全部出来ますか?」
「何故僕がそんな面倒なことをしなくちゃならない。そんなのは全部女の仕事だろう」
「面倒ですか…」
鵜飼さんの言い方が我慢ならず、私は冷めた眼差しを向ける。
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