第8章 月夜【テオ→主人公】
風が冷たい夜だった。
ようやく画商としての仕事を終え、自室へと目指していた足取り。
今その予兆がなくとも、いずれ彼女を取り戻しに来るだろう。
伯爵の慈悲で招き入れてしまった鬼女。
故郷では見世物小屋の筆頭だったという『魔法』をかけられた災いの種。
それを思い、テオは深く息を吐いた。
ふと夜空を見上げると、月が青く光っている。
満月とまではいかないが、わずかに欠けた月はそれでも美しい。
― ―?
耳をかすめた、かすかな歌声。
屋敷の中庭あたりから響くその声は、月夜に染み渡るようだった。
哀愁げだが、どこか優しさをはらんだその声。
迷いながらも、テオは元来た道を引き返した。