第7章 月見酒にはご用心?【ナポレオン・★】
「よし子さん………。少しだけ、月見酒に付き合ってはくれないかい?」
この太宰の一言が 事の発端だった。
「太宰さん………私で良ければ」
そっと笑んで、彼の後をついて行く。
妖しく微笑を浮かべた、彼にも気づかずに………。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
連れ出されたのは………中庭の東屋。
初夏に咲き誇る花々が散りはじめていて、移りゆく季節を教えていた。
「これだよ。………では、呑もうか」
太宰は、グラスに酒を注ぐと彼女に渡してくれた。
「ありがとう、太宰さん」
口にすれば、ほんのりと花の香りする
それでいてすっきりした甘さを纏った酒が喉を通る。
「美味しい………。」
「だろう? やはり、あなたを誘って良かったね」
………そう呟き笑んだ表情が色香を纏っているように思えるのは、彼女の気のせいだろうか。
(あ、れ………。一口しか呑んでないのに、なんだか………。)
ふわふわとする思考を抱えて、促されるままにもう一口目に唇をつけたとき―――。
「太宰。お前………イサラになに飲ませてんだよ」
低く冷たく声がした。ふらりと傾いた身体を、抱き留めて。
「ナポレオン君。なに………彼女と月見酒をしていただけだよ」
「どうだか。あんたは、アズリを誘うつもりだっだんだろうが。
イサラ、………イサラ。行くぞ」
ぺちぺち、と彼女の頬を軽く叩けば。
「うふふ、………ナポレオン。大好きっ………!」
酔っ払いと化し抱きついてきた恋人に、思わず吐息を封じる。
膝裏に手を差し込み、抱き上げた。
「次にこいつに同じことをしたら………只じゃおかねえからな」
燻る感情のままに、言い放って。
「あなたを抱けないのは残念だけれど………。
彼なら………彼女を大切にするかな」
浮かべた儚い笑みを、月灯りだけが照らしていた。