第5章 君の魔法【フィンセント・本編ネタバレあり】
「フィンセント………?」
「あ………ううん。何でもないよ」
ふいに胸をかすめたのは、寂しさにも似た感情。
(あなたは、みんなに優しい人だ。
そんなあなただからこそ、俺はあなたを好きになった。
だけど………。)
俺だけに、優しかったらいいのに………。
身勝手にも、そう思っている自分がいて。
「あれ、先輩………?」
ふいに、男の声が耳をかすめた。
人当たりの良い笑みを湛え、彼女を見つめて。
「偶然ね、会社にいるとき以外はイサラでいいよ?」
彼女がその男の人に微笑いかける。
それを見て、胸に黒雲が漂いはじめた。
その手首を引いて、腕に閉じ込めた。
「彼女は………、俺と一緒だから」
上辺は穏やかだけれど、彼に厳しい視線を向けた。
「ふ、………フィンセント!」
「行こう………、イサラ」
「う、うんっ」