第4章 片恋ワルツ【アーサーBD企画様参加SS】
「舞踏会はあまり好きじゃないのに、ね………。」
礼装に身を包み、アーサーはため息とともに呟いて。
事の発端は、遡ること数時間前。
「アーサー………、イサラのエスコートを、頼まれてくれないか」
穏やかだけれど、心が見えない微笑みを浮かべた伯爵がこう言ったのだ。
「え?」
「君なら彼女を完璧にエスコートできるだろう?」
疑問形のようで、肯定的な言い方。
そっとため息をついて、了承したのだ。
(俺が欲しいのは………、あのコ自身なのに)
だけれど、これ以上心に踏み込まれるのが怖くて彼女を避けていたんだ。
「アーサー、準備は終わった?」
控えめなノックとともに、イサラの声がした。
なんとかいつもの笑みを貼りつけて、入ってと声をかける。
「イサラ………そのカッコ、」
彼女の姿を見て、胸が痺れた。
髪を結い上げて、ドレスを纏ったイサラ。
「え?
あぁ、伯爵がドレスを贈ってくれたの。似合わないかな………。」
「そんなコトない、綺麗だよ」
普段どおりの振る舞いを見せる彼女がありがたかった。
彼女がぎゃくしゃくしていた日々のことを声に載せていたら きっと、俺は………。
「アーサー?」
ハッとして、笑みを浮かべた。
「行こう………、イサラ」
俺の手に、彼女は自分のそれを重ねた………。