第3章 犬【赤井秀一】
「赤井さん聞いてください!私今日職場の人に犬に似てるって言われたんですよ!酷くないですか!?」
「……違ったのか?」
帰宅してモヤモヤ沸々と溢れる怒りと一緒に買ってきた食材を冷蔵庫に突っ込んでいると、赤井さんが意外そうにこちらを見た。
あー赤井さんまでそういうこと言うー!褒められたんだろ?完全に悪意の塊でしたよ!!そうかすまん。
ソファーでくつろいでいたらしい赤井さんと対面キッチンを挟んで言葉のかけあいを繰り広げる。が、謝った後にコーヒーを優雅に啜るあたり気持ちが篭ってないのは一目瞭然だ。誠意を!わたしは誠意を求めます赤井さん!!
「犬は頭もいいし、癒し効果もある。素直に喜べばいいだろ」
「パグに似てるって言われて喜べますか」
「……く、」
あ、笑った。今この人完全に笑ったよ。すぐ咳払いしたけど、可愛いじゃないかとかポーカーフェイスで取り繕ってるけど笑ったよ。
そもそも「パグ可愛い」って言うけど、あれがみんなの本心ではないことを私はよく知っている。伊達に二十云年人間やってるわけではない。よく考えてみて、「パグ」ってあだ名を影で付けられて呼ばれていた人のことを。その人ってどういう人だったか思い浮かべて?あの…ね、つまりはそういうことだよね?
「しかもパグじゃないなら、いい所ダックスフンドだって言われたんです」
「よかったな」
「手足が短いってことですが!!!」
「……くく、」
今度は誤魔化す気すらない、というかツボにハマってしまったらしく小刻みに揺らしている。冷蔵庫に食材を詰め終えた私はそれが気に食わなくて、赤井さんが持っていたコーヒーを全部飲み干してやった。まぁ、一層笑われてしまったのだが。