第2章 赤井さん、大事件です【赤井秀一】
「……」
「……」
「今のは練習です!!」
「そうだな、練習は大事だ」
「そう!練習大事!!」
じゃーんけんぽん!
気を取り直して出てきた手はのパーと赤井のチョキ。
「……たしか三回勝負だったな」
「で、ですよねー!三回でしたよね!」
じゃーんけんぽん!
はグー、赤井もグー。
あーいこでしょ!
グーとパー。
次こそは……とが拳に向かって怪しげな念を送り出した。じゃんけんなんて単純なゲームで、運もコツもなく知略を巡らす程の事でもない、ただ単にどちらがこたつを出てお茶っ葉を取りに行くか決めるだけの事なのだが、ここまで負けてしまうと彼女としてはどうしても、1度くらい勝ちたくなってきたのだ。
「」
「すいません、ちょっと集中させてください」
「次はパーを出すからな。じゃーんけーん……」
え、えぇえええちょっと!ちょっとタイム!!待ってタイム!!!!ぽん。
狭いコタツに二人並んで、わちゃわちゃ(主にが)蠢いた結果は、のグーと赤井のパー。異様な雰囲気が二人の間を駆け抜けた。
「……うぅあ」
「……」
「ああああああああ」
「」
負けの象徴である拳を頭の上で掲げ、テーブルに持たれるに、思わず赤井が俺が取ってこようか?と恐る恐る声をかけた。俯いてるせいで当然顔は見えないのだが、それでも覗き込むように、そっと彼女の様子を伺うと、違うそうじゃないと首を左右に降り始めた。
「赤井さんを信じれなかった自分を恥じてるだけです。死んできます。」
ノロノロとコタツから這い出る縮こまったの背中がキッチンを目指す。それに向かって赤井は緩んだ口からちゃんと帰って来いよと声をかけた。寒さで飛び込むように戻ってくるであろう彼女を思い切り抱きしめてやろう。それから頬へ口付けも、なんて思い巡らしながら。
fin.