第8章 lumière douce【降谷零】
「何かあったのか?」
傷口は血と泥が混じり合っていて、見ているだけで顔をしかめたくなる。細っこい髪の毛は涙で顔中に貼り付いていた。太陽の光を浴びた水面のような目には涙が溢れて途切れることがない。降谷少年は泣きじゃくるこの少女がだんだん可哀想になってきた。そう思えてしまうのは、故意ではなかったにせよぶつかって吹き飛ばしてしまった罪悪感からか、それとも──、
「……わ、わたっし、」
「うん」
「変、じゃないのにぃ……」
「うん?」
「…か、髪、とか……ひっ、目の色と、か」
「……」
「みんな、へんって……いって」
「そっか」
「違う…のに、」
「……悔しかったな」
嗚咽飲み込んでは吐き出してと繰り返しながら、やっとの事で言葉を紡ぎだした少女を見て降谷少年は青い瞳を優しげに細めた。そうだ、この子の前を去るにされなかったのは罪悪感からではない。可哀想だというただの同情心でもない。幼い頃の自分と重ねたのだ。少女を通し、泣き虫で小さな自分が見えた気がしてとても他人事には思えなかった。
「君、ハーフかい?」
「……お母さんが、ハーフ」
思考を巡らせることで悔しさから意識が移ったのか少女の涙はいつのまにか引っ込んでいた。降谷少年も段々と焦りが消えて少女の日本人らしからぬ容姿に目がいく。髪色は色素が薄く太陽の光を浴びるとキラキラ輝いて透明に見えたし、今まで涙で隠れていた瞳も日本人にはない色だった。子供特有のまぁるい頬も抜けるように白い。母親がハーフならばこの少女はクォーターということか。
「俺ハーフなんだ」
「お兄ちゃんが?」
「うん、髪の色が変って言われるの悔しくて君くらいの時にいっつも喧嘩してた」
「お兄ちゃんの髪も目も綺麗だよ」
「ありがとう、君の髪と目の色も綺麗で俺は好きだな」
「ふふふ」
褒められたことがくすぐったいかのように少女が控えめに笑う。それに釣られるように笑顔になった少年は頬に張り付いた少女の柔らかい髪を一つ一つ丁寧に拭ってやった。