第10章 哀色からの脱却
「貴方にとっての、12年前の貴方自身が存在していないということですか」
また、涙が流れた。その涙をウィリアムが優しい手つきで拭い取る。
「どういうきっかけで、それを知ったのです?」
「……家を、見に行ったときに……」
「はい」
「私じゃなくて、全然知らない子が……私の位置にいて……」
ウィリアムは私の口を塞ぐようにキスをした。先程のような激しいものではなく、優しいキスだった。
「わかりました。それ以上は、語らなくても良いですよ」
口調も、心なしか優しく聞こえた。
「……ウィル」
「なんです?」
「もう……おしまいですか」
ウィリアムの腕を強く握った。
「……私は、無知で、歳の割に幼くて……それに、ここに存在すべき人間ではないのかも知れない」
ウィリアムは黙って聞いている。
「あなたが何故このような事をしてまで私のことを知ろうとするのかは、よくわからないけれど……怖かったけど……でも」
体のおかしな感覚が、下半身をじわじわと温めていた。
「こんな風に、何度も触れられたいと思ったのは……初めてでした」
私のその言葉を聞いたウィリアムは、私の鎖骨付近に思い切り吸い付いて来た。
突然の展開に私は目を見開いたが、すぐにそれも快感に変わっていった。
強く強く、吸い上げられる。
「あっ……ふ、ぁ」
口を離し、顔を上げたウィリアムの表情は、少し寂しげに見えた。
「あと少しすれば、薬の効果が切れて楽になります」
ウィリアムはベッドから降り、私のブラウスを綺麗に畳んで枕元に置いた。
「昨日に続き、手荒な真似をした事、お許し下さい」
それだけを言うと、軽く一礼をして部屋から去ってしまった。
「ウィル……」
ウィリアムを見送った私は、反動で襲って来た眠気に耐えられず、寝落ちてしまった。