第7章 存在価値と愛
「患者の中で、まだ被害に遭っていない女ってのが」
そう言ってロナルドは手帳を取り出して開いた。
「リストに載ってるっぽいんだよね」
「マダムに殺されるの?」
ロナルドは手帳を閉じ、少し考え込んでいるようだった。
「……事前にリストの内容漏らしたってバレたらマジでヤバイから、ここから先は俺の独り言ってことにしといて欲しいんだけど」
彼は困り顔でため息混じりに、今更ヤバイも何もないか、と呟いた。
「その女の名前は、メアリ・ケリー。今月の9日に死ぬ」
「11月……9日!?」
それは、ローズ伯母さんの命日だった。
「場所はホワイトチャペル。日が暮れてからの犯行だね」
伯母さんの遺体が発見されたのも、そこだったような気もする。
伯母さんの代わりに、彼女が死ぬということなのだろうか。
「まぁ正直、この件に関わる必要はないと思うんだけどさ」
ローズ伯母さんの名前が出ない以上、確かに私達が追うべき事件ではなさそうだ。
「ただ俺個人としては、この事件を引き起こしているサトクリフ先輩らの行動と行く末は、気になるっちゃ気になるんだよね」
少し間をあけてから、ロナルドがまた口を開いた。
「当日、この現場にクロエがついてきたとしても、良い情報を得られる可能性はかなり低い。でもあえて、俺はクロエの意見を聞きたいと思ってる。どうする?」
私の答えは決まっていた。
今回起こる事件が、直接的にローズ伯母さんを始めとした家族に関わりがないとしても、私が経験した12年には全体を通して色濃く関係があるのだ。
見届けない訳にはいかないと思った。
それに、ロナルドが調べて突き止めてくれた事でもある。
それを“関係ないから”と言えるはずがなかった。
「私もついて行くよ。……この前のときみたいに、逃げたりしない」
「逃げたいときは、逃げても良いんだよ。ただ、一つだけわかっておいて欲しいのは、逃げた先が“安全”だとは限らないこと。今回は特にね」
「……うん」
「だから逃げたくなったときは、闇雲に走ったりするんじゃなくて、俺に飛び付いておいで。クロエだけは、何に変えても守るから。……約束してくれる?」
私は頷いた。
そして、彼の胸に飛び込み、強く抱きしめた。
「……これは逃げたくて、じゃないからね」
「わかってる」
そう言った彼は、私の頭を優しく撫でた。
